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2008.03.21

Leonard, D. and Swap, W. 「経験知を伝える技術」

Leonard, D. and Swap, W."Deep Smarts: How to Cultivate and Transfer Endurig Business Wisdom," Havard Business School Press, 2005.

(邦訳:池村千秋訳「経験知を伝える技術」ランダムハウス講談社)

私はDorothy Leonardは日本でももっと頻繁に引用され、話題になっても良い方だと思う。「知識の源泉」などはナレッジマネジメントの定番教科書になるだけの価値がある。

本書では、米国のITバブルの時にIT起業家が真に必要としていた知識、deep smartsの獲得、形成、移転から正面から取り組んでいる。

ディープスマートは、その人の直接の経験に立脚し、暗黙の知識に基づく洞察を生み出し、その人の信念と社会的影響により形作られる強力な専門知識だ。・・個々の情報よりノウハウに基礎を置く。複雑な相関関係を把握してシステム全体の把握に基づく専門的な判断を迅速に下し、必要に応じてシステムの細部にも踏み込んで把握できる能力である。その能力は正式の教育だけでは身につかないが、計画的に育むことはできるし、献身的に努力すれば、他人に移転することも再創造を促すこともできる。(邦訳16ページ)

なんだ何も目新しい概念ではないじゃないかと感じるかもしれない。確かに目新しくはないが、何かと過小評価されたり、反対に、ブラックボックスのまま神棚に祭られたりされやすい概念であるため、改めて丁寧に吟味することには非常に意味がある。

ディープスマートの定義を少し何でもありにしすぎてきるような気がするが、私はここでのポイントは、個々の情報ではなく、ものごとの関係を把握し、他に応用できる能力、というところにあると思う。暗黙の部分も多いが、明示的にできる部分もあるだろう。また、他人に移転可能であり、再創造を促すことができると考えていることが重要である。

本書にもあるとおり、deep smartsを得る方法の基本は、深い経験を持った人から適切な指導を受けながら実体験を通じて学ぶことである。適切な指導を受けても、初心者がエキスパートになるにはざっと10年かかるという言う。deep smartsを得るには手間も時間もかかり、多少古臭いと思えるような方法が必要だということは、常に最新の技術知識が必要とされるIT産業でさえ決して例外ではなく、それを過少評価したために多くのIT企業が行き詰ったのだというのが本書のメッセージである。

この10年というのは、例えば研究者の世界でも感覚的にぴんとくる。学部の後半2年、修士2年、博士3年、よい指導者の元で一生懸命勉強しても、かなり優秀な人でもまだエキスパートにはなっていない。十分に訓練された人は、だいたい博士をとってから3年から5年ぐらいで一人前になるような気がする。ざっと10年というのは適切な勘定だと思う。

伝統的には、徒弟制がdeep smartsの伝承するしくみとしての役割を果たしてきたが、社会のしくみや個人の考え方自体が変化しているし、技術の急速な変化やグローバルな相互作用など環境が激変している現在の状況に合ったdeep smartsを獲得、形成、移転するしくみをつくる必要がある。

本書が提案されているのは、一言で言えば組織のdeep smartsの獲得、形成、移転について意識的になるということである。

・まず、自分が知らないことと他人が知っていることのギャップを知ることから始まる。その人、その組織に足りない知識を過小評価しないようにし、また、組織内の知識ギャップをなくしていく。

・deep smartを得るには経験の量と幅が欠かせない。ただし、すべてのケースを経験できないのでシミュレーションをうまく使う。また、一人で何もかも知っている必要はない。誰が何を知っているかというノウフーもdeep smartの一部である。

・ただ経験するだけではdeep smartsは形成されない。経験を受け止め体系化するレセプターが形成されなければならない。

・経験を持った人(知識コーチ)から経験の浅い人への指導の元で経験することが非常に効果的である。
 -教える意欲と学ぶ側の意欲、態度がもちろん必要条件である。自発的な師弟関係が望ましい。
 -端的な指示や経験則、体験談は役に立つ場合もあるが、経験しながらの指導に勝るものはない。
 -知識コーチは、経験のレパートリーを増やす計画に関するアドバイスと結果に対するフィードバックを与え、学習者がやみくもに経験することを避ける。
 -知識コーチは必ずしもエキスパートのレベルに達していなくてもよい。限界はもちろんあるが、少し先輩が少し後輩に教えられることはある。

・本業のプロジェクトに教育上の目的も持たせる、二重の目的を担うプロジェクトを考えてみる。

今後研究していかなければいけないことは、いろいろある。私が興味を持っているのは、いろいろなものごとのつながり(多くは明確に言語化できない)についてある人が理解したとして、それを他の人に理解してもらうにはどうしたらよいかということである。経験に基づく指導が効果的というだけではまだ箱が大きすぎる。もう少し箱の中身を、一部でよいから覗いていみたい。

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