Norman, D.A.「人を賢くする道具」、「誰のためのデザイン」
Norman, D.A.「人を賢くする道具」新曜社
(Norman, D.A. "Things that make us smart," Addison-Wesley, 1993.)
学部時代はあまり勉強しなかったから大きな声では言えないのだが、私の学部の専攻は心理学で、当時とても注目を浴びていた認知心理学研究会に一応入っていたのであった。そのとき最初に読んだのがこのノーマン氏の書いた認知心理学入門だった。紆余曲折を経て、20数年ぶりに戻ってきたわけである。
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体験的認知(experiential cognition)と内省的認知(reflective cognition)という二つの認知を分けることが適切かどうかは議論のあるところだが、技術がわれわれに知らず知らずのうちに与える影響を考えるときには有用な視点である。
よくできたアクションもののDVDを見て、どきどきわくわくしたけど、翌日になったらどういうストーリーだったのかすっかり思い出せないというのは、筆者が危惧する体験的な認知に偏ったエンターテイメントの典型である。それに対して、本の中の一行が心に残って何日もその意味を考える、というのは内省的認知が引き出された例だ。
確かに、現在の娯楽が体験的な認知に偏る傾向があるのは特に子供の成長にとって大きな問題だと思う。自分が発見したり工夫したりしなくても用意されている魅力的なものが世の中に溢れすぎている。
こう書くと内省的な認知がいかにも知的な活動のように見えるが、それほど美化できない内省的認知というものもたくさんある。学生のさっぱり要領の得ない文章を何度も読んで、その意図するところ(というよりも本人もほとんど意識していない可能性)を何とか見つけ出そうとする、大学の先生の日常とか。
この体験的認知と内省的認知の問題を始めとして、目的や状況に適した認知がなされるように、道具を賢く設計し、使いなさい、というのがこの本の中心となっているメッセージだ。
もう一つ、本書の底を流れている主張は、人間を人間らしくしているのは道具や外部にある表現(認知のアーティファクトと呼んでいる)による能力の拡張である、人間は本源的に道具と共にあるのだ、ますます技術が複雑化し扱いにくくなっているからといって人間は道具から逃げることはできないのだ、という考え方である。
本書の個々の観点やモデルにはまだまだ発展の余地があると思うが、このメッセージに関しては、まったくそのとおりだと思っている。ITや高度に発達した技術によって引き起こされる問題点が指摘されるたびに、私は、それは技術が悪いのではない、その使いこなし方が悪いのだ、簡単にその技術がなかった昔に戻りたいなど言うべきではない、と思っている。(もちろん、中には放棄すべき技術もあると思うが。)
飛行機の機長と副操縦士がそれぞれゲームのジョイスティック式の操縦桿を操作する方式に変えたらうまくいかなかった、という事例はおもしろい。連動した大きな装置を二人で操作することによって、互いのコミュニケーションと行動が同期する、という古いテクノロジーが持っていた重要な特性を見逃していたのである。
デジタル時計を持っている人はすぐわかる。時間を尋ねるとアナログ時計を持っている人のように、10時ちょっとすぎ、というようには決して答えない。副作用というほどではないかもしれないが、10時3分、と答えることに意味はあるだろうか。
このようなことは、新しい技術が現れると大なり小なり必ずある。特に技術変化が激しい場合は、人間や社会の側も、技術の側も適応がおいつかないので、気付かないうちにとても大切なものが失われることがある。
そのようなことを防ぐために、技術が人間の役に立つように、もっと意識をしよう、工夫をしよう、ということだ。人間の役に立つデザインというのは、エンジニアが考える単純な機能の話よりむしろ、「この技術はいかにもこのように使えそうだ」とわれわれを誘う、認知的な特性がポイントになる。(これをアフォーダンスという。)
この本が書かれて15年近く経っているが、技術のアフォーダンスの問題はいまだに盲点でありつづけている。チェックを何重にすることよりも、ミスがおこりにくいデザインにすることのほうがずっと大切なのである。
ITがらみで重要な指摘を覚書として書いておく。(p141-142の要約)
・表現(representation)には、人間に見える表層的な表現とその技術の内部で独特の論理によって記述される内部表現がある。
・情報メディアは、伝達される情報の内容によらず、いつも同じようなやり方で内部的に表現される(つまり0と1)ところに特徴がある。人間にとっては、この内部表現を意味のある表層的な表現に変えることが必要で、だからこそ、われわれは以前にもまして、道具のデザインに依存するようになっている。
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ヒューマン・マシン・インターフェースの諸原則について、もっと詳しく、しかし非常にわかりやすく書いてあるのは、
Norman, D.A.「誰のためのデザイン?」新曜社
(Norman, D.A. "The Psychology of Everyday Things," Addison-Wesley, 1988.)
である。メモだけを簡単に残しておく。詳しいことを知りたい方は本書を読んでみることをおすすめしたい。
*よいデザインの条件
・可視性
-どんな行為ができるのか、システムの概念モデル
-行為の結果
-現在の状態
・よい概念モデル
-ユーザーのもつモデルを、システムイメージを通してデザイナーのモデルに一致させる(2つのモデルは自動的には一致しない)
・よい対応づけ
-意図と行為
-行為と結果
-目に見える情報とシステムの状態、
・フィードバック
*よいデザインを実現するための工夫
・外界にある情報と頭の中にある情報をうまく利用する
・過度に精密にしない。構造を単純化する
・自然の制約と文化的な制約をうまく利用する
・起こるかもしれないエラーは必ず起こることを前提とする
・最後の手段が標準化
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Comments
はじめまして
ブログ「みんなの知」のMacと申します。
竹田様のブログを引用させて頂きました。
今後もよろしくお願いします。
Posted by: Mac.k | 2008.05.06 at 10:57 PM
はじめまして。
こちらこそよろしくお願いします。
Posted by: yt | 2008.05.06 at 11:52 PM